●算数つまづきポイント解説〈3年生〉

《3年生の算数つまづきポイントは、“わり算”。 しっかり理解するには時間がかかります》

小学校では、3年生から“わり算”の学習が始まります。
ご承知の通り、わり算は難しいです。どういう場面で、なぜ、わり算を使うのか、子どもに質問されて「え、それは・・・」と言葉に詰まってしまった、という話はよく聞きます。大人でも、理解を改めて問われると、自信が持てない人は多いのではないでしょうか。

仮にそこで、「こうだからこうだよ」と上手く説明できたとしても、子どもがすんなり理解できるとは限りません。 どれだけわかりやすく教えても、子どもの方に、“受けた説明を理解できるだけの理解力”が備わっていなければ、その場しのぎの“わかったふり”で終わりです。どれだけ上手に種をまいても、土が固く貧弱であれば、芽は出ません。

わり算の意味を、しっかりと理解するのには(それだけの理解力を得るのには)、時間がかかります。
3年生から習い始めるわり算ですが、私から見て「わり算の意味をしっかり理解して使いこなせている」と思える3年生は稀です。典型題なら解ける、そういう子は沢山います。でも“しっかりと腑に落ちている”わけではないので、応用が利かないのです。何度も書いてることですが、典型題が“できている”からといって、“わかっている”とは言えないのです。

4年生の後半になるに従って、少しずつ腑に落ちてくる子が増えてきます。「できれば5年生の6月くらいまでに…」、私はいつもそう思いながら指導しています。 理由の一つは、いわゆる“10歳の壁”で、これ以降は新たな思考回路の作成が難しくなることを、経験から実感しているからです。もう一つは、この時期から小学校で、“小数÷小数”を習い始めるからです。整数同士のわり算が理解できていない子にとって、小数同士のわり算は混乱の元でしかありません。ここまで少しずつ進んでいた“わり算の意味理解”も、ここで滞り、混乱してしまうケースが目立ちます。その場合、6年で“分数÷分数”に進むことで、混乱はますます深まります。5・6年生の“割合”でつまづく子は沢山いますが、わり算の意味が表面上にしか理解できないまま高学年に突入してしまった場合、つまづきは確実になります。

学び舎こいくでは1年生にも、わり算を使う問題を出しています。実際には絵で考えるため、わり算を知らないまま、÷という記号を使わないまま解いていくのですが、それを2年生、3年生と、レベルを上げながら繰り返していき、わり算の理解に必要な視覚イメージを強化していきます。しかし、1年生から始めても、上記したように4年後半くらいにやっと、ということが多いです。それぐらい、わり算を(応用が利くレベルまで)しっかりと理解する、というのは難しいことなのです。

私自身も、集団塾で算数指導をしているときは、それほど時間がかかると思ってませんでした。独立して、“絵で解く文章題”を使って、子ども達の理解の程度が、より詳細に見えるようになって、初めてわかってきたのです。この、“わり算の意味理解にかかる時間の長さ”は、私にとって驚きの事実でした。たし算・ひき算・かけ算とは全くレベルが違うのです。しかし、納得の事実でもありました。“典型題だけは解ける子=それを応用できない子”は、「え?なんでこれをこれでわった?」とか「え?ここはわり算すればいいじゃん」ということが非常に多く、集団塾で指導していた当時、その壁を超えるのが非常に難しかったからです。

「どう教えたら、わり算の意味を理解してもらえるだろうか」 算数指導のプロとして、様々な工夫をし、それが実ることもありました。が、なかなか実らず苦戦することも、多々ありました。苦戦の理由が、当時の私の指導力不足にあることは事実です。が、どれだけ上手に種をまいても、固く貧弱な土には芽が出ない、というのもまた揺るがぬ事実です。その経験から、現在は、多少雑な種のまき方であっても、しっかり芽を出せる“豊かな土壌つくり”に挑戦しています。しっかりとした“考える力”さえ育てば、(少々時間はかかったとしても)“わり算の壁”も、楽々と乗り越えていけるはずです。

“豊かな土壌つくり”のために、保護者の果たすべき役割は、とても大きいと思います。そのことについては、このブログでも様々な角度から触れているつもりです。参考にしてください。お子さんがわり算を理解できないとき、「私の教え方が悪いのかしら…」と考えて教え方を工夫する、そのこと自体はよいことだと思いますが、どう教えるか(いかに種をまくか)は、“豊かな土壌つくり”に比べれば、些末な問題と言ってしまってよいと思います。わり算の理解には時間がかかるものですから、悩まず暗くならず、焦らず明るく、土壌つくりに励んでいただければと思います。

さて、前提をお伝えしたうえで、ここから先は、“わり算の教え方のポイント”について書いていきます。どう教えるかは、些末な問題ではありますが、やはり要領を得ない教え方で混乱させてしまうよりは、わかりやすく教えてあげた方がいいのは間違いないですからね。

わり算の意味は(福岡市で使用している教科書に準じた場合)、3つあります。
3年1学期の“はじめての計算”という単元で、①から③の順に紹介されます。
①1人分の数をもとめる計算
「クッキーが12こあります。3人で同じ数ずつ分けると、1人分は何こになりますか。」
②何人に分けられるかをもとめる計算
「クッキーが12こあります。1人に3こずつ分けると、何人にわけられますか。」
③何倍かをもとめる計算
「クッキーが12こあります。パイは3こあります。クッキーの数はパイの数の何倍ですか。」

わり算の教え方については、様々な意見があり、教科書によって微妙に異なります。例えば、上記の教え方について、専門家Aさんは、「①から③を一単元で教えると混乱するから、まず①を理解させてから②に進み、②が理解できたら③、というふうにしっかり分けて教えるべき」と言い、専門家Bさんは、「①から③に分けることで混乱する。①は□×3=12、②は3×□=12、③は3×□=12、すべてかけ算の逆なんだから、分けずに同じものとして教えるべき」と言います。正しいのはどちらでしょうか?

一つはっきりと言えるのは、「小学校の先生は、程度の差こそあれ教科書に準じて教えるので、家庭でも教科書に準じた教え方に統一した方が、教わる方はわかりやすい」ということです。お子さんが「宿題がわからない」と言ってきたとき、それがわり算であれば特に、独自の教え方は避け、教科書を参考にするとよいと思います。私個人の意見としては、前半(3・4年生)はAさん方式を重視して、後半(5・6年生)はBさん方式を重視して教えるとよい、と考えています。それぞれの式を絵図化していくと、

①は、12個を3人で分けるので、□□□□/□□□□/□□□□  12÷3=4 で、4個。
②は、12個を3個ずつ分けるので、□□□/□□□/□□□/□□□  12÷3=4 で、4人。
③は、12個は3個の何倍かなので、□□□/□□□/□□□/□□□  12÷3=4 で、4倍。

となり、①と②は明らかに違います(②と③は同じ)。思考が視覚イメージで為されることを考慮すると、スタートからBさんの意見を重視した教え方をしても、子ども達の理解が追い付かないと思います。理解が進めば、“わり算はかけ算の逆の関係”のイメージが定着してきますから、そこでBさんの意見を重視した教え方にシフトしていけば、高学年の“割合”で、小数や分数のわり算を行う時も、かけ算の逆、と考えることができ、スムーズに理解が進むはずです。

ちょっと話が難しくなってきましたね。やはりわり算は難しいです。ただ、そんな難しいわり算を習いたての子ども達がどうやってクリアしているか、①②③の3つの意味を、どうやって頭の中で整理しながら理解しているか、に注目すると・・・ ①を習って「ふむふむ…わかる気がする」、②を習って「ん?なんかわかるようなわからんような…まぁとりあえずわっとけばいいんやね」、③を習って、「はいはい、わっとけばいいんでしょ」・・・おそらくほとんどの子が、こんな感じだと思われます(笑)。 「とりあえずわっといたら…ぜんぶ正解だった、できた!」 (できてるけど…わかってないよね…というか最後の方、考えてすらないよね…) つまり、ほとんどの子が「3つの意味を頭の中で整理しながら理解してはいない」と思われます(笑)。

この後、“あまりのあるわり算”を学んで、“わり算の筆算”を学んで、その過程で少しずつ、(相応の理解力が備わっている子は)理解していくものと思われます。教室で見ていると、子ども達が理解しやすい“わり算の意味”は、①の考え方(等分除)です。②の考え方(包含除)の理解に、時間がかかる子が多いです。しかし上に図示したように、②と③は共通しており、先々、“割合”の理解に繋げるためにも、②の理解はとても重要です。ですから、ご家庭で教える機会があれば、②の考え方を強調していただくとよいと思います。その際、教科書の文言通りに、「これは“何人に分けられるかをもとめる計算”だから…」と説明してもよいのですが、オススメは以下のような説明の仕方です。

「わり算には、“わける”という意味以外に、“いくつ入っているか調べる”という意味があるらしいよ。12個の中に3個はいくつ入ってる?」 「え、えっと…」 「1つは入るよね。2つは?」 「入る」 「3つは?」 「さざんが…入る」 「4つは?」 「さんし…入る。ぴったり!」 「そう、5つは入んないね」 「ということは…4人にわけられるのか」 「せいか~い!やるじゃん♪」

いくつ入るかを考えるときに、「2つだと3+3=6個、3つだと3+3+3=9個…」と、たし算で考える子もいますし、「1つ入ったら12-3=9個残り、2つ入ったら9-3=6個残り…」と、ひき算で考える子もいます。これをバツとしてしまう先生が多いのは残念なところ。たし算やひき算の繰り返しでも答えが出せたのならそれで「せいか~い!」とすべきです。その上で、「たし算の繰り返しをカンタンにやっちゃえる裏ワザがあって、それが九九の暗記(かけ算)なんだよ」と話を続けると、+-×÷が別個に存在するのではなく、繋がっていることが意識できてよいと思います。

この教え方であれば、かけ算の逆、という認識もしやすいですし、③の理解(ひいては割合の理解)にも繋がりやすいと思います。更に、“あまりのあるわり算”や、“筆算手順の意味”の理解にも、役立つこと間違いなしです。機会がありましたら、使ってみてください。