●合格発表の後に話してほしいこと

福岡では主要な中学入試が終了しました。この教室からも、毎年数名ですが、中学受験に挑戦する小6生がいます。今年は全員が希望する中学校に進学することになってホッとしています。
受験生の皆さん、保護者の皆様、おつかれさまでした。

受験はあくまで通過点、私はそのように考えますが、頑張ってきた当事者たち(本人・保護者)は
“合格”をゴールにして走り続けてきたわけですから、合否が大変な重みを持つことも理解できます。
今年はたまたま良い結果で終わりましたが、(たとえ能力と努力が充分に伴っていたとしても)結果が約束されないのが受験です。望まぬ結果に終わることもままあります。“第一志望校の不合格”という厳しい現実を突きつけられた小6生の姿を、大手進学塾で教えていた時代には、たくさん目にしてきました。思い出すと今でも胸が痛くなります。

スタートはみんな、軽い気持ちなのです。志望校への熱い想い、厳しい受験勉強を乗り越える覚悟、
そんなものを持ち合わせた小学生はほぼいません。(保護者は別ですが。) しかし勉強させる側からすれば、そこからどれだけ意識を高められるかが勝負です。 「自分次第で未来は変わる!」
いま頑張れば将来にどんないいことがあるかを熱く語り、同じ受験生との競争を意識させ、長時間の勉強に耐えられるようなメンタルを育てていきます。勉強量はどんどん増えます。まだまだ純粋な小学生、その気になれば短期間で変わります。

その世界を知らない大人が見たら「そんなにしてまで…」と驚くほどの長時間が勉強に費やされます。負荷に耐え切れずに受験を断念したり、負荷の少ない塾に移ったり、疲弊しきっていながらも何とか現状維持しようともがいたり、そんな子がたくさんいます。「子どもを痛めつけよう」と考えている大人なんていません。「それが本人の将来のため」と信じる大人が、負荷を与えるのです。(往々にしてその主役は保護者です。) そして実際、その試練を乗り越え、人間的に大きく成長する小6生も確実に
います。ですから、そういった大人の行動に対しての是非は、人により分かれるところだと思います。
(ただ、今の私は、こういう負荷を与える側には回りたくないと思っています。)

負荷に耐えて勉強を続けていく過程で、「これだけ頑張ったんだから絶対に合格したい」という想いが生まれ、強まっていきます。そしてその裏には、(恐ろしすぎて明確に意識されずとも)「これだけ頑張ってもし落ちたら…」という不安や恐怖もきっと生まれているはずです。
そして受験。現実は厳しく過酷です。合格に笑う子もいれば、不合格に泣く子もいます。“奇跡の大逆転合格”が生まれた数だけ、(定員が決まっている以上は当然に)“予想外の悲劇的不合格”が生まれます。「自分次第で未来は変わる!」と信じて頑張り続けた結果、受け入れがたい未来に迎えられる子もいます。「君の頑張りが足りなかったんだから仕方ない。」多大なる負荷と重圧を、小さなからだで必死に耐えて努力する姿をそばで見ていたら、そんなことは絶対に言えません。

中学受験批判や進学塾批判をしたいわけではありません。私からお伝えしたいことは二つです。
一つは、受験勉強を始めたり、進学塾に通ったり、負荷を与えたりする際に、保護者の皆様には、
このような現実があり得ることを知っておいてほしい、ということです。高校受験ならさておき、中学受験は保護者の理解と援助なしには成り立ちません。知ったうえで、お子様の様子をよく観察しながら、
考慮を重ねて、行動に移してもらいたいと思います。

二つめです。保護者の皆様には、お子様にぜひ、「自分次第で過去は変わる」ということを話してあげてほしいと思います。過去は変わる、と言っても、もちろん過去の事実は変わりません。もし受験が不合格に終わったら、その事実は覆りません。ですが、今はマイナスの意味しか持たない過去(例えば不合格)も、その“意味づけ”は、この先の自分次第で変わり得るのだ、ということです。

今の自分に不満がある人からすれば、マイナスの過去はマイナスのまま、プラスの過去だってマイナスに成り得ますが(あの時はあのことに喜んでたけど今思うとあれがダメだった)、その逆に、今の自分を誇れる人が、かつてのマイナスの過去を、プラスに捉え直しているケースは多いと思います。(あの時はあのことに落ち込んだけど今思うとあれがあったから今の自分がある)

経験豊富な(?)保護者の皆様であれば、「長い目で振り返ると、あのマイナスの過去が、自分を大きく成長させてくれる契機となっていたんだな~」と思えることが一つくらいあるのではないでしょうか。
人生、何がどう転ぶかはわからないものです。しかし、人生経験の少ない小6生にとって、目の前の
マイナスの過去は、一生背負う十字架のようなものに見えているかもしれません。この先の自分の在り方次第では、それが大きなプラスに転じることもある、いや、転じさせることができるように、(受験が良い通過点となるように)、これからの自分をつくりあげていくことが大切なんだと、人生の先輩として、話してあげてほしいと思います。

そして、「自分次第で過去は変わる」ということはぜひ、今回(たまたま?)合格を手にすることができた子にも、話してあげてほしいと思います。合格と不合格、はっきりプラスとマイナスが決まっているように見えるけど、それは今そう感じるだけであって、過去にプラスの意味づけができるか、その全ては
この先の自分次第だと。今後きっと、“失敗”や“挫折”と呼ばれる、それ自体は一見マイナスに見える経験を積むこともあるだろうけど、それらも全て、自分次第でプラスに変えていけるのだと。