●忙しいあなたへ

突然ですが、ミヒャエルエンデの“モモ”という児童文学作品をご存知ですか? 「題名は知っているけど読んだことはない」という方が多いのでは? こいく文庫には入れていませんが、この作品はぜひ、子育て中の大人に読んでほしい。特に前半、“時間泥棒”から時間の節約を勧められた人々が結果的に “自分の時間”を奪われていく様子、それにより何にもまして貴重なはずの“豊かな幼児期”が子ども達から奪われていく様子の描写。忙しい現代日本で子育てをしている我々にとって、非常に示唆に富んでいる内容だと感じます。(とりあえずはこちらのアマゾンレビューを!)

よく言う話ですが“忙しい”とは“心を亡くす”と書きますね。常に何かに頑張っていることが求められ、日々忙しくしていることが当然のこの社会。その中で、私自身は比較的“忙しさ”とは無縁の“ヒマな時間”というのを沢山持ってきたように思います。子ども時代だけでなく、大学時代(授業にほとんど出ていませんでした)や世界一周中(20代後半の3年間、毎日バカンスでした)、普通の日本人ではあり得ないくらい、膨大な時間をの~んびりと過ごしました。でもヒマだとけっこう“考える”んですよね。私も会社勤めをしていたときはそれなりに忙しくしてましたけど、忙しいときって(現実的なことはまだしも)本質的なことや抽象的なことを考える時間がなかったりします。ヒマなときはホント何の役に立つんだ、というようなことを深く深く考えていましたが、意外とそこで深めた考えが今の自分の芯をつくっているような気がします。

そしてそのとき考えたことの一つが、「我々は“忙しくすること”を本当に自分で選択しているのか」ということ。日本を外側から眺めてみると、内側にいるときには気づかない強烈なメッセージが社会全体を覆っているように感じました。それはこんなメッセージ。 『考えるな。忙しくしろ。そして消費しろ。』

「誰が何のために?」というのを考察し始めると長くなりそうなのでやめますが、このメッセージが大人だけでなく、子ども達にも強く影響していることは看過できない事実です。子どもにとって“ヒマな時間”というのは、何かに一生懸命に取り組んでいる時間と同じくらい、大切なものだと思います。そこを経てからしか生まれないものというのが確実に存在する、私はそう思います。しかし、今はテレビやゲームのせいでヒマな時間そのものが生まれにくく、そこに大量の宿題、そして習い事、と息つく暇もないくらい忙しい小学生が沢山いるようです。大人側にも、将来への不安などから「無益な時間を過ごさせまい」という焦りのようなものがあるような気がします。

常に漠然とした不安や焦りがある、という方。もしかするとそういったものは、無意識に働きかける『考えるな。忙しくしろ。そして消費しろ。』という声の影響かもしれませんよ。モノに溢れた社会でモノを売り続けるために、企業は商品だけでなく、消費者の“不安や焦り”“不足や欲”を大量に生産し続けています。心安らかに楽しく子育てするためには、そこから自由になる努力、“自分の時間”を取り戻す努力が必要な時代になっていると思います。

今、目の前でヒマそうにしている子どもも、実はその内側で深い思索の深淵に降り立っているかもしれません。「なに考えてんの」と聞いたらきっと「しょ~もな~!」という答えが返ってくるでしょうが…(笑)。
でも本当にそれがその子にとって価値のないことなのか…わかりませんよね。大人の管理下にない
“自分の時間”は、“豊かな幼児期”に必要不可欠なものだと思います。

ハードスケジュール、忙しい生活は子どもにとってプラスにならない。特に“考える力”を伸ばすのには向いていない。保護者の方々には、自分の考えを正直に伝えるようにしています。すると「そうかもしれない…」と同意してもらえることが予想以上に多いです。我が子の様子から感じるところがあるのでしょうか。ただその後に、「でも今までのやり方を変える勇気がない。何かさせてないと不安になる…」と口にする方も予想以上に多いです。

そのような方には、これを何かのきっかけと思って “ライフスタイルの変化”に繋がることを、具体的に少しずつでも実行してみることを提案します。例えば、メディアへの過度な接触を自制すること。自然の中であえて何もしない時間を持つこと。本当に必要なものだけを買う努力をすること。食事や医療や教育を安易に外部委託せずできるだけ自給すること。

我々夫婦はこれまでずっと、上記のメッセージから自由になるべく、いわゆる自然派なシンプルライフを心がけてきましが、そのせいか(元々の性格かもしれませんが)不安や焦りとは無縁の生活を送ることができています。(会社を辞めたり、築130年の古民家に引っ越して来たり、少しは不安になりそうなものですが…) 我が子への圧倒的な信頼感、というのもそこから生まれているように感じます。
世の全ての親が、よく考えて、自分らしいライフスタイルで、自分らしい子育てをすれば、未来は明るいと信じます。